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株式会社LIXIL

百年前の窯空間と、ものづくりの魂をよみがえらせる。
INAXライブミュージアム「窯のある広場・資料館」リニューアル展示プロジェクト

photo: Daici Ano

愛知県常滑市にあるINAXライブミュージアムは株式会社LIXILの運営する文化施設。その中の「窯のある広場・資料館」は、1921年(大正10年)に土管などを焼く窯場として建てられた。1997年には国登録有形文化財(建造物)に登録され、2007年には経済産業省 近代化産業遺産にも認定された。

中に入ると、大量の土管を焼いていた窯の迫力と、木組み、鉄骨(一部、鉄道レールを使用)の豪快な構成に圧倒される。百年という歳月が熟成させた空間だ。

photo: Daici Ano

2019年10月には、3年越しの保全工事と合わせ、内部の展示も全面的にリニューアルし、公開された。展示の全体プロデュースとアートディレクション、グラフィックデザインはアクシスが行った。プロジェクションマッピング、映像装置、空間デザイン、グラフィックデザインを組み合わせて、土管製造全盛期の常滑と、土管を作り暮らしていた人々の姿を現代によみがえらせることを目指した。

2年にわたるリニューアル展示のプロジェクトについて、お伝えする。

photo: Daici Ano
photo: Daici Ano

従来の展示とコンペ案

リニューアル展示について、アクシスにコンペ参加の打診が来たのは2017年11月。私たちは、トラフ建築設計事務所、デザイナー・美術作家の寺山紀彦さん(studio note)、研究者・映像作家の菅 俊一さんと企画チームを組み、コンペに参加することにした。

まずは現場を視察した。窯も建屋も、実用性を中心に作られた形態と、年月が醸した味わいが組み合わさっていて、とても魅力的に感じた。一方で、1階の天井が視界をさえぎり、窯の前面が見えないことが残念だった。2階は展示施設として使われており、白い什器によって窯を望むことができなくなっていた。

2017年当時の窯の内部。
入り口から。1階の天井があるため、窯の前面が見えない。
2階。右に窯があるのだが、什器に隠れて見えない。

コンペでは、1階の天井(=2階の床)を大部分撤去し、窯の姿を見せることを提案。また、さまざまな映像装置や遊具、体験的な仕掛けを使って、土管について面白く学ぶことを考えた。いわば、土管のテーマパーク、土管のアミューズメントスペースとでもいうべき案だった。

2017年のコンペ案。

空間体験とものづくりの熱を二大コンセプトに

コンペではアクシスチームが選ばれ、2018年をコンセプト設計、2019年を実施設計と制作・施工に当てることになった。

当初の展示案は、コンペ案を引き継いで、土管と常滑について楽しく学ぶことを中心とするものだったが、いくつかの懸念点があった。来場前の人々にどこまで土管が興味を引くか不安が残ること(多くの人には、土管といえばドラえもんかマリオのイメージくらいしかない)、そして、建て込みが多くなると、窯と建屋の空間の雰囲気を壊してしまいかねないことである。

ディスカッションの末、2019年に入ってから思い切って方針を転換することにした。土管についての知識は思い切って優先度を下げ、「窯、建屋の空間体験」「ものづくりの熱」を二大コンセプトとした。窯、建屋の空間自体が貴重なものであるし、それはまた、ここに肉体を駆使して土管を作った人々がいた証でもあるからだ。

窯と建屋の空間の雰囲気を壊さずに情報を伝える方法はないか? 企画チームで案出したのが潜望鏡型のスコープを使って映像を見せる手法である。

潜望鏡型のスコープで映像を見る(デザインは当初案)。
「窯、建屋の空間体験」「ものづくりの熱」の二大コンセプトに変更した1階のゾーニング案(当初)。空間の魅力をそこなわずに体験を深めることを重視した。

スコープをのぞくと、現在の屋内空間に、昔、工場で働いていた職人の姿が半透明で重なって映る。窯に石炭を投入したり、大量の土管を運搬したりする職人たちだ。スコープの中に職人たちの“ものづくりの魂”がぼうっと浮かび上がるのである。

展示空間デザインを担当するトラフ建築設計事務所がスコープをデザインし、展示施工の乃村工藝社がプロトタイプを制作した。大人用と子供/車椅子用に二段構えのスコープとし、下側のスコープには潜望鏡をイメージしたハンドル型バーを組み合わせた。外観の塗装は空間の雰囲気を邪魔せず、かつ風格も持たせるよう、古美色を選んだ。

プロトタイプをチェックするトラフ建築設計事務所の禿 真哉さん。
スコープを覗き込む寺山紀彦さん(左)、菅 俊一さん(右)。(写真はオープン後の撮影)

スコープ内の映像はルフトツークの遠藤 豊さんのディレクションのもと、2019年夏に行った。贅肉のない筋肉質な舞踏家二人に職人役を務めてもらい、窯に石炭を投入するシーンや、土管を運搬車で運ぶシーン、乾燥用に土管を並べていくシーンなどを撮影した。昔、常滑で実際に土管を焼いていた方に実地指導を受けながら、撮影を進めた。

「スコープ・オブ・ソウル」。スコープを覗くと、働く土管職人の姿が現実の風景に重なって見える。(写真はオープン後の撮影)
photo: Daici Ano

話は前後するが、2階の床を抜いて、上まで吹き抜けにした効果は抜群だった。下から見上げるトラス構造の木組みはとても美しい。その美しさを引き立てるべく、照明計画を遠藤照明 照明計画研究所長の佐々木直之さんにお願いした。

2階の床を抜くと、窯の前面全体とダイナミックな木組みが見えるようになった。外光が入る日中と、照明が映える夕方では別の魅力がある。(写真はオープン後の撮影)
photo: Daici Ano

感じてもらうための展示企画

「窯の空間体験」と「ものづくりの熱」を感じてもらううえで中心となる展示企画が窯プロジェクションである。窯の中で炎が上がる様子を来場者が体験できるという試みは、おそらく日本で初めてだろう。

窯のレンガ壁にはどの程度、映像が映るか。プロジェクタで何度かテストを行った。コンテンツは、土管の焼成プロセスを見せる「土管を焼く」と、常滑の昔の街とそこで働く人々を見せる「土管と生きる」の二本立てとした。

第1回テスト。比較的光量の低いプロジェクタでも、炎の上がる様子が伝わることを確認。
第2回テスト。非常に光量の強いプロジェクタを導入した。文字も鮮明に映る。書体や文字サイズ、歪みの補正などを検討した。
コンテンツ「土管を焼く」。炎が吹き上がり、土管を焼いていくプロセスをCGで再現した。(写真はオープン後の撮影)
photo: Daici Ano

もうひとつ、「窯、建屋の空間体験」「ものづくりの熱」の両方において重要な役割を担うのが、山田脩二さんの写真展示である。山田さんは写真家(カメラマン)として建築写真や日本の村、町、都市の写真を40代前半まで撮った後、淡路島で瓦職人(カワラマン)に転身したという経歴を持つ方である。昭和38〜39年(1963〜1964年)に常滑の写真を数多く撮影しており、その写真を常設展示する許可をいただいた。土管製造全盛期の常滑の人々や街並みを収めた貴重な作品群である。

2019年夏に淡路島から山田さんにINAXライブミュージアムへとお越しいただき、展示する写真を選定した。

写真の選定風景。左が山田脩二さん。
工事中の現場で、展示する写真をシミュレーションしながら選定。山田修二さんの写真には、昭和30年代後半の常滑の風景や人々の営みが生き生きと捉えられている。

INAXライブミュージアムは土管製造に使われた土練機、土管機、運搬車を所有している。土管の大量生産を可能にするとともに、労働の負担を大幅に軽減した機械たちである。知恵を凝らした精緻な機構を持ち、黒さびて、強い存在感がある。付随する説明パネルは説明をなるべく削ぎ落とし、機械の動きを中心に見せることにした。来場者が読むことにばかり一生懸命にならず、機械自体をじっくりと見てもらいたいと考えたからである。

土管機と説明パネル。

ひとめぐり、ご案内

「窯のある広場・資料館」は2019年10月5日にリニューアル・オープンした。

中をひとめぐり、ご案内しよう。

「土管を焼く」。土管の焼成プロセスをCGで表現。
photo: Daici Ano
「土管と生きる」。土管で溢れていたかつての常滑の街や、土管づくりに励む人々の写真を投射。
photo: Daici Ano
1階北側はフォト・ギャラリー「やきものの街・常滑 昭和38-39年」。写真家の山田脩二さんが青年時代に撮影した常滑の街並みと人々の営みを写真展示。
photo: Daici Ano
「スコープ・オブ・ソウル」の装置。
photo: Daici Ano
1階南側。土練機、土管機、運搬車を展示。
「動く常滑絵地図」。1940年頃の常滑の絵地図をアニメーション化した。地図の上で煙がたなびき、船や汽車、車が動く。
photo: Daici Ano
2階から窯の前面を望む。
photo: Daici Ano
2階には、「常滑でつくられたやきもの」と、登録有形文化財である窯、建屋、煙突の「保全工事概要」を展示。
photo: Daici Ano

オープン後の評判は上々で、来場者もリニューアル前より大きく増加したと聞く。

今回のプロジェクトで考えたことを最後にまとめたい。

・来場者に何を伝えるかとともに、来場者が何を感じるかについて、想像力を働かせて創っていくことが大切。
・優れた素材(今回でいえば、窯・建屋の空間、常滑も含めたその歴史、そこで生きた人々の姿)があるならば、その素材を活かすデザインを行うのがよい。
・古くから残る空間は、その土地の記憶を宿している。その記憶を来場者に感じ、持ち帰ってもらえれば、場の記憶は広がっていく。

独特な空間の魅力を伝え、常滑ならではの記憶を掘り起こす場をつくることができたのではないかと考えている。

CREDITS

Client 株式会社LIXIL
Producer, Planner 稲本喜則(AXIS)
Art Director 渡辺一人(AXIS)
Graphic Designer 南澤裕文(AXIS)、大久保彩佳(AXIS)
Exhibition Space Designer トラフ建築設計事務所
Exhibition Planner 寺山紀彦(studio note)、菅 俊一
Technical Director ルフトツーク
Lighting Designer 遠藤照明
Exhibition Constructor 乃村工藝社
Conservation Construction Designer 日置拓人+南の島工房
Conservation Constructor 市田建設