アクシスでは、ブランディング業務の一環として、これまで数多くのロゴ開発を手がけてきました。いくつか例を挙げます。
では、ロゴをつくればブランディングを行なったことになるかというと、そうではありません。
この記事では、ロゴがブランドのなかでどういう役割を果たしているのか、そして、ブランドをつくるためには何をするべきなのかについて考えてみたいと思います。
ブランドとは人の頭の中にある連想
そもそもブランドとは何でしょうか?
それは、実は人の頭の中にあるさまざまな連想だと言われています。例を使って、説明しましょう。
仮に「X BRAND」という製品・サービスブランドがあるとします。このブランドに何度もふれている人は、頭の中にX BRANDについてのさまざまな記憶をたくわえています。
たとえば、X BRANDという名称やロゴ、パッケージ、最初に使ったときの体験、価格が高いという印象、SNSで見た誰かの評価、ストア、テレビCM、などなどです。それらの中には、強い印象を残しているものもあれば、かすかな記憶のものもあるでしょう。
人が、知っているブランドを購入したり、利用したりするときにはこうした連想が瞬間的に働くと考えられます。
たとえば、店頭であるブランドのパッケージを見たとき、人の頭の中には過去のさまざまな連想(テレビCMや、使ったときの体験、ショールームの記憶、などなど)が意識下あるいは潜在意識下に呼び起こされます。その連想が強く好ましいものであれば購入する確率は高くなり、連想が弱かったり好ましくなければ購入する確率は低くなるわけです。
「ブランドとは人の頭の中にある連想」というのは、何かをきっかけに、あるブランドについての連想が次々と引き出されることを意味しています。人間にたとえるなら、ある人について考えると、その人についての別の連想が呼び起こされるようなものです。
連想を引き出す道具、ロゴ
ロゴ自体はブランドではありません(王冠が王様ではないのと同じです)。ロゴはブランドについてのさまざまな連想を引き出すうえで、とても有効な道具です。
たとえば、コカコーラのロゴをじっと見つめてみてください。そして、思い浮かべたことを並べてみてください。
何を思い浮かべたでしょうか? コカコーラの味を思い出す人もいれば、あの特徴的な瓶を思い出す人もいるでしょう。あるいは、過去や現在の広告を思い出す人、コカコーラを飲んだシチュエーションを思い出す人もいるでしょう。中には、ペプシを思い出すあまりブランドロイヤリティの高くない人(?)もいるかもしれません。
では、ヴァージンのロゴを見つめてみてください。今度は何を思い出すでしょうか。
型破りな創業者リチャード・ブランソンを思い浮かべる人もいれば、彼の熱気球による冒険を思い浮かべる人もいるでしょう。昔からの洋楽ファンならヴァージン・レコードのLPやCD、日本にもあった巨大なCDショップ、ヴァージン・メガストア。ヴァージン・アトランティック航空の設立や(当時、レコード会社のヴァージンが航空会社を立ち上げたのは驚きでした)その斬新なサービスを思い出す人もいれば、宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティックについてのさまざまなニュースを思い出す人もいるでしょう。
コカコーラのロゴもヴァージンのロゴも、連想を非常に強く呼び起こす力があります。単にロゴの造形が美しいからよいとか、カッコよいからいいということではなく(もちろん、優れたロゴ・デザインなのですが)、強いブランド力を備えたロゴなのですね。そして、その「強いブランド力」とは、強い連想を呼び起こす力です。
先のX BRANDを例にして図としてまとめると、こうなります。
「ロゴを見る」→「さまざまな連想を呼び起こす」。この自動作用がロゴと人の間で起きます。そして、呼び起こされた連想が強く、好ましいものであれば、そのブランドが選ばれる確率は高くなるわけです。
ロゴはブランドという人物の顔である
ブランドと人間はとてもよく似ています。
知っている人の顔写真を見たら、きっといろいろなことを思い出すでしょう。その人とのちょっとした会話やふとした仕草、笑ったこと、腹の立ったこと、何気ない記憶……。同じように、知っているブランドのロゴを見ると、人はいろいろなことを思い出します。ロゴ開発がブランディングの中でも重要なのはこのためです。
好ましい顔立ちの人のことを好きになりやすいように、好ましいロゴのデザインは好感を持ってもらいやすいです。しかし、ブランディングがロゴだけで決まるわけではありません。人の好ましさが顔立ちだけで決まるわけではないのと同じです。重要なのは、人がロゴを見たとき、豊かで好ましい連想をしてもらえるように施策を打っていくことです。
強いブランド力を持つためには
「強いブランド力とは、強い連想を呼び起こす力」と書きました。では、強い連想を呼び起こす強いブランドをつくるにはどうしたらよいでしょうか。
それには、さまざまな担当が行なっている施策を「強いブランドをつくる」という目的に向けて、ひとつにすることが大切です。
「ブランドのあるべき姿」を描き、そのあるべき姿を実現できるように、さまざまな施策の方向性を合わせていく必要があります。そうすることで、さまざまなかたちの、しかし一貫性のある記憶を人の中に残すことができるようになります。世の中の強いと言われるブランドでは、たいてい、ブランドのあるべき姿をスタッフがよく理解しており、同じ方向にむかって努力しています。
そして、さまざまな部署をまたがるスタッフが同じ方向にむかうためには:
1. あるべき姿を描くこと 2. あるべき姿を共有すること |
の2つが必要です。特に2つめの「共有する」という点はおろそかにされがちですが、とても大事です。あるべき姿を共有しないと同じ方向へとむかえないからです。
ブランドのあるべき姿を描き、共有する方法については、またあらためて書こうと思います。
最後に、ここまでをまとめましょう。
・ブランドとは人の頭の中にあるさまざまな連想 ・ロゴはブランドについての連想を引き出す道具 ・ロゴはブランドという人物の顔 ・強いブランドをつくるには施策を同じ方向にむけることが大切 |
豊かで好ましい連想を人に持ってもらうのがブランディング、その連想を引き出すうえで最も有効なツールがロゴ、と考えてください。
(ソリューショングループ 稲本喜則)