強い連想を呼び起こす強いブランド力をつくるには、大きく2つの取り組み方があります。「固めるブランディング」と「広げるブランディング」と私は呼んでいます。
●固めるブランディング
統一したルールに基づき、さまざまな製品・サービス・メディア・コンテンツをまたいで共通したイメージを伝えること
●広げるブランディング
製品・サービス・メディア・コンテンツそれぞれを印象的なものとし、ブランドイメージを豊かにすること
どちらのブランディングが重要かというと・・・どちらも大事です(笑)。固めるブランディングだけでは統一感があるというだけの、印象の薄いブランドになりかねませんし、広げるブランディングだけではイメージがバラバラとなって、ひとつのブランドとして人々に記憶してもらえません。
今回は、前者の「固めるブランディング」、つまりブランド全体に共通したイメージをつくる方法について、特にビジュアル面から書こうと思います。
ブランドについて人々に共通したイメージを抱いてもらうには、特に4つの視覚的な要素を統一する方法が有効です。
・ロゴ ・カラー ・書体 ・グラフィックエレメント |
要素1 ロゴ
ロゴはブランドという人物の顔です。人間の行動や印象が顔に紐づけて記憶されるのと同じように、ブランドの振る舞いや個性もロゴに紐づけて記憶されます。
ロゴがそのブランドらしさを体現していたり、印象的であったり、さまざまな機会を通じて露出したりすることももちろん大切ですが、ここではもうひとつポイントを挙げたいと思います。
それは:
ロゴをしっかり見せること
当たり前のように思われるかもしれませんが、意外とこれがきちんとできていないことがあるのです。
たとえば、左側では写真にロゴがかぶさっていて、見ている人の印象に残りません。人間でいえば、顔を隠しているような状態です。右のように白場を設けて独立させてロゴを見せると、写真の記憶をロゴと結びつけて頭の中にインプットできます。
ポイントは、ロゴのまわりには余計な要素を入れず、ロゴを独立させて見せることです。ロゴのまわりの何も入れないエリアを「クリアスペース」(あるいは「アイソレーションエリア」、「保護区域」)と呼びます。
要素2 カラー
ブランドのイメージをつくりあげ、記憶してもらううえで、色の果たす役割はとても大きいです。たとえば、「コカコーラの色は?」と訊かれればたいていの人が「赤」と答えるでしょうし、「ローソンの色は?」と訊かれれば「青」と答えるでしょう。
ブランドのイメージづくりに色を有効に使っている例として、アメリカの建設機械メーカー、キャタピラー社の動画を見てみましょう。キャタピラー社のブランドカラーはイエローです。
1つめは「Cat Trial」という、キャタピラーのサービス技術者が体を張ってゲームに挑戦する動画です。
製品はもちろん、会場内の構造物や操作画面、画面の色処理、テキストなどにふんだんにイエローを使い、「キャタピラー=イエロー」というイメージを記憶させています。
2つめはキャット・ファイナンシャルというローンやリースなどを扱うサービスの動画です。
1本目の動画とは全く違うテイストですが、テキストやイラスト、ちょっとしたディテールにイエローを用いて、キャタピラーらしさを見る人の頭の中にインプットしています。
要素3 書体
書体は目で見る声とも言われます。ブランドで用いる書体を統一することで、人々に同じ声で語るようなことが視覚的に可能になります。
ソニーはSSTフォントという書体をコーポレートフォントとしてオリジナルで開発しました。SSTフォントは日本語、英語はもちろん、93言語まで対応しており、製品パッケージや広告、Web、取扱説明書などに用られています。
SSTフォントを用いたソニーの企業ムービーを紹介しましょう。
日本語、英語ともにSSTフォントで表示しています。SSTフォントというソニーの「声」で見る人に語りかけているわけです。
欧米の企業では自分たちオリジナルの書体をつくるケースが少なくありません。日本企業の場合は和文の文字数が欧文に比べて非常に多いため、和文のオリジナル書体までつくるケースは少ないですが、それでも既存の書体をコーポレートフォント(制作物等で必ず使う書体)として決めている企業が数多くあります。
要素4 グラフィックエレメント
ブランド内で共通して使う図形的な要素をグラフィックエレメントと言います。ロゴとは少し違ったかたちでブランドの個性を視覚的に表現できます。ごくシンプルなものから複雑なものまで、あるいは小さなものから大きなものまで、いろいろなタイプがあります。
ブランドの個性を表現するうえでとても有効に使っている例として、ドイツの電機メーカー、シーメンス社の動画を見ていただきましょう。
次の動画のサムネール右下、テキストの載っているグリーンのグラデーションの矩形がシーメンスのグラフィックエレメントです。動画内の随所に出てきます。
次の動画はタイ・バンコックの鉄道についてのもの。
家電製品についての動画。
ご覧のように業種は全然別なのですが、共通のグリーン・グラデーションの矩形を使うことによって「あ、シーメンスだ」「シーメンスらしい」と感じさせています。この矩形は動画ばかりでなく、Webや広告、展示会、カタログなどシーメンスのほとんどあらゆるメディアに共通して使われ、シーメンスの個性を伝える(あるいは、刷り込む、と言ってもいいかもしれません)役目を担っています。
マニュアルでルール化する
こうしたビジュアルな要素を用意しても、各担当者が自由な解釈で使うと、かえっておかしなことになります。きちんとルール化して、ブランド関係者内で共有することが大切です。
そうしたビジュアル上のルールを定めるのがVIマニュアルです。ブランドデザインマニュアルとか、企業の場合はCIマニュアルと呼ばれることもあります。
仮のサンプルですが、こういうものです。
通常はロゴ、カラー、書体、グラフィックエレメント等の基本的なルールを定める「ベーシックデザインマニュアル」(画像の上段)と、さまざまなアイテム、メディア等にそれらをどう落とし込むかを定める「アプリケーションデザインマニュアル」(下段)から成ります。その他に、ブランドのコンセプトやスタイルを明文化する「ブランドコミュニケーションマニュアル」をつくる場合もあります。
全てはブランドを記憶してもらうために
「固めるブランディング」はブランドの統一したイメージを創り出し、人々に記憶してもらうためものです。現代に生きる人々は毎日、いろいろなブランド表現にふれています。そのため、自分の携わるブランドについて記憶してもらうには、何度も何度も同じイメージを見せ、頭にインプットしてもらう必要があります。担当者ごとにまるで別の表現を行なっていては印象が薄まってしまい、ブランドをなかなか覚えてもらえません。
この記事で書いた4つの要素は、視覚的にブランドの統一したイメージを人々に記憶してもらうための代表的なものです。きちんとルール化し、それをブランド関係者全員で正しく使い続けると(←これが大切です)、ブランドの印象が強まり、人々に記憶してもらえ、やがては強いブランドへと育てていくことが可能になります。
アクシスではこうしたブランドを構成する視覚的要素のルール化やマニュアル化も数多く行なっています。ブランドが何かうまくいっていない、と感じていらっしゃるようでしたら、お気軽にご相談ください。
(ブランドデザイングループ 稲本喜則)